2016-01-01から1年間の記事一覧

廊下に鳩が迷い込んでいた。20mほどのやや短い廊下には他に誰もおらず、僕と鳩はすっかり見つめ合う格好となった。鳩はまるで動かないままじっと座っていた。本当に生きているのだろうかと不安になり、近寄って観察してみる。目は開いているものの呼吸をして…

7時10分

大阪駅で電車を降りる。ちょうど向かいのホームにも電車が止まって、更なる人の群れが階段へと押し寄せる。 階段からその先の通路へと、群勢がのそりのそりと歩くのだが、みんながゆっくりと同じ方向へ歩く様子はまるでゾンビのようだ。僕も死んだような目を…

雨の日に咲く花

雨のホームに電車が滑り込んできた。人々がまるで家畜のように、ひょっとしたら家畜より酷い環境に詰め込まれて運ばれる。濡れた人々が電車の窓を白く曇らせて、それを見るたびに僕は、人間もまた動物の一種類であると知る。 僕はスーツを着るとき、靴下、ワ…

あまりに強く後光が射すから

夜に訪れるイランのバスターミナルは、いつも寂しげだ。 イランは産油国ということもあってバスの価格が安く、またバス自体のクオリティも高い。だから、少しでも節約したい旅行者たちはここぞとばかりに夜行バスで移動する。僕も同じで、前回に来たときも今…

視野狭窄の末

デイパックが本格的に壊れ始めてきた。 長期旅行に持ってきた鞄はふたつ。ひとつは、いわゆる「バックパック」で登山用の大きなものだ。もうひとつは「デイパック」。街歩きをするときにカメラや貴重品を入れるのに使っている。 このデイパックは3年前にカン…

橋を渡って

犬に噛まれたら24時間以内に一本目のワクチンを打たなければならなかったはずだ。狂犬病が発病すれば、100%死ぬ。 不意に見知らぬ田舎町で病院を探さなければならなくなった。手持ちの本によると、ロシア語で病院は「バリニーツァ」と言うらしい。僕は通り…

書を捨てよ、犬に噛まれよう

小さな町だ。メインストリートはわずか数百メートル。このあたりでは大きな町らしいが見るべきところはなにもない。その日は朝からバザールに行って「シュワルマ」と呼ばれる、いわゆるケバブを食べた。バザールに並ぶ商品は他の町と大差なく、僕はそれらに…

飽食の豚

キルギスの物価は安い。 物価が安いというのは旅行者にとって好ましいことだ。レストランに入れば数百円で満足いくまで食べられる。ここに来るまで少しハードな日程で移動していた僕は、休養という名目で数日間ここにゆったりと滞在し、良い食事をして"贅沢"…

路上の土

あのバス事故が起きて既に半月ほど経っただろうか。半月の間に世間の関心は二転三転し、もはやあの事故は忘れられようとしている。 だけど、僕の中には未だ深い爪痕が残り、時々ズキズキと痛む。あれは、この数ヶ月で最も衝撃が大きい事件だったと言っていい…