三途の川

 三途の川に来た。念のためポケットを探ったが、入っていたのはガムの包み紙だけだった。船頭に金がないと告げると、鬼のアルバイトを紹介された。言われた場所へと行ってみると禿げた小男がいて、僕はその男に雇われることになった。
 賽の河原。子どもたちが小石を積んでいる。僕の仕事はただひたすらその山を壊して回ることだった。子どもが石を積む。僕が壊す。子どもが泣く。積む。壊す。泣く。積む。壊す。泣く。仕事は順調に進んだ。僕はただ小石の山を壊せばよかった。この分だとすぐに川を渡れるかもしれないな、なんて思った。
 遠くで鐘が鳴って、初日の勤務が終わった。僕は他の鬼たちと列になって宿舎へ向かった。入り口にいる盲目の老婆に名前を告げると、今日の給料と小さな巾着袋を渡された。老婆はただ一言、好きな場所に寝なと言った。
 中に入ると、土を固めた床の上に無数のござがあるだけだった。僕は適当な場所を見つけて横になる。目を閉じてみてもなかなか眠れなかった。さっきの子どもの泣き声が耳から離れない。床から立ち上る強烈なドブの臭いは、一晩かけて僕の体に染み込んでいった。