7時10分

 大阪駅で電車を降りる。ちょうど向かいのホームにも電車が止まって、更なる人の群れが階段へと押し寄せる。
 階段からその先の通路へと、群勢がのそりのそりと歩くのだが、みんながゆっくりと同じ方向へ歩く様子はまるでゾンビのようだ。僕も死んだような目をして毎朝それに加わっている。

 階段を再び登って乗り換え先のホームへたどり着く。大抵はタイミングよく一番前に並ぶことができる。僕はいつもここで顔を上げて、遠く、向こうの11番ホームを眺める。

 11番ホーム。特急サンダーバードがそこから出る。7時40分、金沢行きの始発。まだ停車していないけれど、きっと30分後にはあそこから出発するんだ。それに飛び乗ってしまうことができたなら、どんなにか素晴らしい世界が僕を待っているだろう。 

 それに飛び乗ってしまうことができたなら。

 

 目の前に電車が滑り込んでくる。毎朝乗っているのに、この電車がどこから来るのか僕は知らない。ただ、とんでもなく混んでいて、乗客の大半が大阪駅で降りるということしか知らない。僕はこの電車に4分間しか乗らないのだ。

 電車のドアが開くと同時に、異臭が鼻を突く。濃縮された人間の臭い。僕は思わず顔を背けてしまう。降車が一通り済んだ後の車内は比較的空いているのだが、臭いだけは消えずにずっと残っている。

 僕は眉間に深い皺を作り、なるべく息を吸わないようにしながら窓際に立つ。4分間の辛抱だ、4分間の辛抱だと自分に言い聞かせる。

 ふと、また11番ホームが目に入った。サンダーバード。まだ停車していない。僕はまだそれを見たことすらない。でもきっと、きっとあそこから、見知らぬ世界へ。