距離

 いつからか、街中で女性に声をかけるようになっていた。ご飯を食べて解散することもあれば、そのままホテルに行くこともあった。連絡先を聞いても大抵は一度きりの出会いだった。
 僕なんかが声をかけて付いてきてくれる人は誰にでも付いてゆくような人で、それはつまり寂しい人だった。僕も同じで、相手は誰でもよかった。ただ、寂しかった。

 

 セックスがナンパのゴールなのだろうか。だとしたら、僕にとってナンパは自傷行為だ。ベッドの上で身体を重ねれば重ねるほど、腹の奥の方がえぐられるような不快感を覚える。あとでその瞬間を思い出しては、ドロドロとした胃液の塊がせり上がってくるような吐き気がする。
 誰でもよかったのだ。自分も、相手も。誰でもいいから今夜のこの寂しさを埋めてくれる存在が欲しいだけなのだ。そう思うとまた一気に虚しい気持ちになる。だけれども、僕はまた街角に立つ。そしてまた傷つく。街角に立つ。傷つく。その繰り返しだった。

 

 どれだけ肌を触れ合わせても、本当の意味では触れ合っていないように思われた。彼女はそこにいながらにして、また同時にいなかった。僕はいつも虚空に向かって腰を振る。
 あんなに誰かを求めていたはずなのに、いざその瞬間になると自分自身の悲しさに耐え切れずに冷静になってしまう。そうなるとセックスはもうただの作業だ。僕は機械的に丁寧な愛撫をしては、せめて表面だけでもこの時間を幸せなものと感じているように演じる。そしてそのことが相手に申し訳なくて、また心が痛んだ。

 

 つまるところ、自分の人格を認めてほしいのかもしれない。ただひとりの人間を愛したいのかもしれない。でもその方法を知らなくて、また安易な承認を求めてしまう。こんなことは何の根本的な解決にならないと知っているからこそ、切なくて虚しくて寂しい。

 誰かと過ごす夜があれば、ひとりで過ごす夜もある。今の僕にとってはどちらも苦痛に変わりなくて、また今日も眠れない夜がやってくる。