蓄積される業

  飲食店でアルバイトをしているから、この時期はよくゴキブリと遭遇する。まぁ当然捕まえて"処分"することになるんだけど、最近は別に殺さなくてもいいんじゃないかなと思って、自分しか気が付いていなければ、逃がしてやることにしている。そりゃまぁ自分の家に出たなら殺すけど、所詮はバイト先だし、どうせ腐るほど隠れているんだろうから目に付いた一匹を殺したって仕方がないと思う。(一応言っておくと、僕の家にはここ10年くらいゴキブリは出ていない)

 他の従業員、特に主婦なんかは、ゴキブリを見つけると僕に殺すよう促す。昔は何も思わなかったけど、最近はなんだか気が引けてしまう。殺されたゴキブリはゴミ箱に放り込まれる。僕はその瞬間がたまらなく嫌いだ。

 

 深夜のコンビニで缶コーヒーを買って入り口の横で飲んでいたら、後ろで「バチッ」という音がした。振り返ってみるとそこには青白い灯がぼんやりと光っていて、さっきの音は、虫が光に触れた音だった。僕がコーヒーを飲み干すまでの数分間、何度も音が鳴った。生命が弾け飛ぶ音。僕は少し気分が悪くなった。

 

 キャンパス内を歩いていると、向こうから青い匂いが漂ってきた。どうやら草刈りをしているようだった。充電式の草刈り機で、広場の雑草が綺麗に切り揃えられてゆく。僕はそれをぼんやり眺めながら、息を大きく吸い込んだ。胸いっぱいに爽やかな香りが広がり、少し憂鬱な気分になる。これは、植物がその身体を千切られた匂い。生命が削られた匂い。僕はあまりに罪深くて、いっそこのまま青空の中に消えてしまいたいと思った。